クリの立ち枯れ ver2.0 (内容バージョンアップしました)

※一昨日アップ以降に、

「クリの立枯れの原因のうち、


1 クリ胴枯病(クリフォネクトリア菌Cryphonectria)によるものと、

2 疫病(ファイトフトラ菌Phytophthora 疫病菌エキビョウキンとも)によるものと、

3黒根立枯病(マクロフォマ菌Macrophomaとディディモスポリウム菌Didymosporium 黒根立枯れ病菌)


の3つを混同しているよ、との指摘がありましたので、更新させていただきましたm(_ _)m

なお、今回は凍害のテーマは、話を感染症のみに絞り、シンプルにするため意図的に省きました。



今回はクリ栽培にはほんとうにほんとうに重要な話なので、かなりマニアックな域にまで踏み込んで触れてみます。

食べ専門でクリ栽培には興味の無い方は、さらっと流して下さい。


おそらくクリ胴枯病、疫病、もしくは黒根立ち枯れ病と思われる立ち枯れが、6月に入って近隣園を含めて多発傾向がみられます。クリ胴枯病は主に接ぎ木癒合部もしくは剪定切り口を経由した胞子、昆虫、鳥を媒介した真菌による感染症、疫病・黒根立枯病は土壌中に存在して、根からの感染症です。


3つの立枯れを起こす病気があることとその違いは、これまで確かに分かりにくいことが多かったのです。が、今回クリ栽培の3大教科書(荒木先生 クリの作業便利帳、 竹田先生 新特産シリーズクリ、 農文協編 果樹園芸大百科7 クリ)を良く読み直して、さらにインターネットでの欧米での資料も参考にして、気合いを入れ直してまじめに学習し直しました!


で、分かってみれば、意外とカンタン!(*^-^*)


樹皮に割れ目ができる→樹皮内にオレンジ色の変色とらせん状の胞子→クリ胴枯病菌感染症


樹皮に割れ目ができる→樹皮内が黒、褐色の変色と軟化、発酵臭   →エキビョウキン感染症(疫病)


樹幹おおむね正常  →根の黒変、枯死 →黒根立枯病菌感染症



割れ目が黒か、オレンジかって話ですね。当園でも近隣園でもどちらも両方見る気がする、、、。

それにしても”疫病”って普通名詞を病気の固有名詞に使ってしまっているなんて、かなりややこしいです。おそらく有名なアイルランドジャガイモ飢饉を引き起こしたジャガイモ疫病菌が語源なんでしょうねぇ。


リンク:ミシガン州立大学 英語です。オレンジがわかりやすいので。

http://msue.anr.msu.edu/topic/chestnuts/pest_management/major_diseases


クリ胴枯病は世界3大樹木病のひとつで、1900年代にわずか20年余でアメリカグリを全滅に近い状態に追いやったことで悪名高い果樹の病気です。一般に日本グリは耐性がある、といわれるものの、丹波地方での立ち枯れ頻度の高さを見ていると、日本でも3つの立枯れを起こす疾患に対する対応を欧米並にきっちり行う必要があるように感じられます。


ところで、不思議なことに胴枯病と疫病については、幼苗よりも元気な大きな成木の方が一発ノックアウトになるケースが多いのです。凍害や害虫による被害の場合は、幼苗の方が影響が大きいのですが、逆なのです。


もしかしたら、当園では、今シーズンは清耕に近い草刈を5月にしたこと、剪定枝へのチッパーシュレッダーの使用等が一因かもしれません。


しかもカミキリ被害が大きい木ばかりではなく、一見樹皮がキレイに見える樹でも、この季節以降夏までに一発ノックアウトを食らってしまう。同様の点では、アメリカでクリの30メートルからの大木がクリ胴枯病で次々に壊滅した当時の写真が非常にショッキングです。


https://www.nps.gov/parkhistory/online_books/natural/5/nh5g.htm

http://image.search.yahoo.co.jp/search?p=chestnut+blight&ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa#mode%3Ddetail%26index%3D34%26st%3D1079

リンク:伝説のアメリカグリ復活待ち Live Science

http://www.livescience.com/31348-chestnut-tree-comeback.html

リンク:HP埼玉の農作物病害虫写真集

http://gaityuu.com/kazyu/kuri/dougare/page0001.htm


クリの大木の生死をかけた戦いです。枯れてしまっては収穫もできませんし、復活に何十年もの期間がかかります。実際、アメリカでは100年かかってもまだ十分には復活しきれていないのです。そのため、苦渋の決断ですが、今年は樹幹にはガットサイドS塗布と真菌感染対策としてベンレート(殺菌剤)散布を先日から実施しています。できるだけ樹幹周り中心に最小限の使用にとどめ、低農薬の方針で行きたいと考えています。


また、これまでの経験では、どうやら苗購入の時点から、感染を受けて3つの菌のどれかを保菌している苗も多いように感じられます。苗屋さんでの十分な菌感染対策ができていないかもしれず、心配です。


苗に付いて菌が圃場に入る→苗がある程度成長(共生)→苗がある程度大きくなり、暖かくなると大量に菌がばらまかれる→成木の剪定傷、もしくはカミキリ跡から侵入→高温高湿環境になると一気に繁殖→樹幹の形成層のグルリ一周が菌の出すシュウ酸で破壊され、水が上がらなくなり全体が枯死


という仕組みがありそう。


ヨーロッパでは、クリ胴枯病の原因真菌クリフォネクトリアCryphonectria parasitica に感染するハイポウイルスCHV1を利用した生物学的防除が実施されていると聞きます。私もこの菌株が欲しいですー。


リンク:スイスアルプスにおけるクリ胴枯病は生物学的防除でコントロールできる Ursula Heiniger

http://www.waldwissen.net/waldwirtschaft/schaden/pilze_nematoden/wsl_kastanienrindenkrebs_kontrollierbar/index_EN


とにかく、立枯れについては栗農家なら一度は通らねばならない「越すに越されぬ大井川」のようなもの、早急に対応策(排水よくする、清耕やめ、草生に、最小限の薬剤散布)を講じたいと考えています。



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