栗のCA貯蔵に関する50年前の論文が素晴らしすぎ

丹波栗 栽培日記
栗のCA貯蔵に関する資料を探しておりましたところ、今を遡ること約50年のダイキン工業さんのグループによる1972年の輝くほど素晴らしい的確なリサーチがありました。

「クリ果のCA貯蔵による発芽抑制と褐変防止効果
加藤薫、山下育彦、西岡克浩 日本食品工業学会誌 1972 年 19 巻 8 号 p. 371-375」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1962/19/8/19_8_371/_pdf/-char/ja

やはり黄金の70年代、日本のクリ関連の研究は1970年代に円熟期を迎えます。日本人による日本産クリの消費のピークもこの時期でした。彼らの報告では、0度、6%CO2-3%CO2、湿度85-90%が栗のCA貯蔵の至適条件とのこと。

<以下には、社会的には未だ認知されていない私的な学説を含みます。もし不愉快に感じられる方はどうぞ飛ばしておかれるようお願いいたします。>

その後の和栗食文化をめぐる変化については、クリタマバチのアウトブレイク、食の欧米化、韓国からの栗輸入の増加、円高、バブル時代、人件費の上昇、温暖化による枯死、中国での栗生産の爆発的増加、果物の多様化、共働きの増加など、数々のマイナス影響を及ぼした要因を挙げることができます。

しかし、そうした中で、実は最も深刻な影響を与えたのは、上記のいずれでもなく、クリに対する臭化メチルの使用の一般化でした。

なにしろ栗は独特の良い香りと食感を魅力とする食べ物ですから、その香りと食感を奪ってしまう臭化メチルくん蒸剤の使用は致命的だったのです。すっかり硬くなってしまう例もみられました。そして、致命的に風味変化してしまうようになった市場流通する生の和栗から、敏感な消費者は徐々に離れていきます。

多くの人にとって、栗を食べていて中から虫が出てくることが確かに生理的にあまりにショッキングであるということもあって、「このにっくき虫を生かしてなるものか」と、「救世主」の臭化メチルに頼みこみました。そこには、食べる人にとっては「ああ、あの気持ち悪い虫、恐怖から逃げられる」、栗農家にとっては「あの面倒なクレーム、恐怖から逃れられる」と、ある種の思考停止状況が生じたのです。

しかし今となっては、当時臭化メチルがクリの収穫後の流通工程で本当に必要不可欠だったか、他により良い代替手段が無かったか、どうでしょうか。

一方で、同じ時期に食の安全性ではあまり信頼が置けないとされた中国産のクリが、輸出向けに選果を徹底し、最新の冷蔵・冷凍貯蔵施設を拡充し、くん蒸剤を使用せず、有機認証を取得し、レトルトパックとなり、進化して行きました。

管理された為替レートを背景とした圧倒的な価格の優位性もあって、このように臭化メチル不使用で和栗よりも鮮度管理面で高品位となった中国グリ、いわゆる天津甘栗が、徐々に日本での高品質「剥きグリ」の優位な地位を築いて行った経緯は、残念なことに日本のクリ農業関連のJA職員や都道府県職員には未だよく認知されていません。

そうした中で和栗においては、中津川・恵那地方の和菓子屋さん方がくん蒸剤を使用しない材料で作った栗きんとんが、今日時代と共に難しくなってきた和菓子の中で傑出した強烈な存在感を放っています。生菓子に準じて日持ちがあまりせず、手間もかかるので、菓子屋さんにとっては大変な商品ですが。

栗農家的には、「加工手間を勘案すると、今の栗きんとん一個220円とかの価格は消費者的には良くても、生産者、流通、加工業者の皆が赤字スレスレ。なので欲しい方に充分行き渡るほどは沢山作れない。もっと原価を踏まえた適正な価格に設定して(上げて)、中国並みに生産・流通・加工各部門に適切な投資がなされて栗きんとんを長く安定供給する方がいいのに。」とずっと思っています。

今回挙げた50年前の論文内容が虫害の単純なソリューションになると言うわけではないのですが、上記のような優れた研究の再興、和栗食文化の衰退と共に忘れ去られていた状態から、ルネッサンスをいつやるか?今でしょ!






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