栗栽培での春、初夏のよい虫、悪い虫

丹波栗栽培、栗巨木探訪をしているなかでいろいろ解ったことがあります。以下、小栗流の栗栽培7つの気付きです。

 

1) 近畿、中国、北陸地方では栗栽培(面積、収量とも)が昭和の後半から平成の初めにかけて大幅に減少。

 

2) 樹齢200年超の栗古木(銀寄、正月などの原木を含む)は近畿圏では近年までに殆どが枯死して、残っていない。

 

3) 温暖化で栗樹の耐凍能が低下し、春から初夏の凍霜害による栗枯死が増加。

 

4) 特に近畿地方では、春から初夏に栗の樹幹や新芽、葉を食害する害虫が増加し、栗樹枯死の増加に関与している。種類は栗栽培成書に掲載されていない病虫害も多い。

 

5) 病虫害が少なく栗発育に好適の気温は、現在の近畿圏平地気温より4〜5℃低い。西日本なら900メートル以上の高地、あるいは信越から東北が好適地である。

 

6)  圃場ごとに土壌や周辺の環境、農薬の使用状況がことなるので、圃場ごとの病虫害被害状況のバリエーションが多い。

 

7) 日本人の栗消費減少の主因には、輸入の増加や食の多様化の他、収穫後のくん蒸処理(臭化メチル、ヨウ化メチル)の普及による栗の食味の著しい低下があった。

 

こうしたことから温暖化への対応、各種の病虫害対策に新しい発想の栽培技術イノベーションが必要だということが分かります。減農薬のための草生栽培、天敵となる益虫の積極的保全、リサージェンス(害虫防除のために農薬を散布すると、害虫が散布前よりも、かえって多くなる現象のこと)を防ぐための薬剤ローテーションによる最小限農薬使用、産卵時期の予測による薬剤のピンポイント散布、0度付近の温度帯での氷蔵、微酸性塩素酸水での洗浄、緑色防蛾灯での防除など様々な技術を組み合わせていくことになります。

※1)の変化のデータは元木靖氏 「グローバル経済下における日本のクリ生産の動向と栽培技術革新」の論文に詳しいです。ちなみに変化の原因分析は私とは一部異なります。

 

亜熱帯化する近畿圏で、健全栗樹木を育成するためにまずは、対応すべき対象(虫たち)の現状把握。そうしたわけで、私なりに春から夏(この時季に限定)の益虫と害虫をまとめてみました。


まず「益虫」からです。大半は、昆虫を補食する肉食昆虫です。


1  甲虫目テントウムシ科 ナナホシテントウ、ナミテントウ 幼虫、成虫ともアブラムシ類を補食。

2  甲虫目ジョウカイボン科 ジョウカイボン 害虫の小型カミキリムシに見えるので間違えやすいですが、肉食益虫と見られます。英名soldier beetle、害虫と戦う戦士らしい名前ですが、実はソルジャーの名は軍服カラーから来ているようです。

3  甲虫目アカハネムシ科 アカハネムシ その名の通り羽が赤い肉食益虫。

4  甲虫目オサムシ科 クロカタビロオサムシ 蛾の幼虫を補食。

5  カマキリ目 カマキリ各種 

6  トンボ目 トンボ各種

7  ハチ目ミツバチ科、スズメバチ科

番外   シュレーゲルアオガエル 各種昆虫を大量捕食してくれます。

 

次に「害虫」です。


1  甲虫目ハムシ科 クロボシツツハムシ、ルリハムシ 4月中旬に出現して幼木の新芽を集団となって壊滅的に食害。なお、クロボシツツハムシはナナホシテントウに擬態しており6つ星長方形型です。

2  甲虫目ゾウムシ上科 オオゾウムシ、クリアナアキゾウムシ、オトシブミ 4月後半と5月に出現して接ぎ木の新芽を好んで食害。(同じゾウムシでも実に付く最重要害虫の1つのクリシギゾウムシとは時季が異なります。)

3  チョウ目ガ各種、アカバキリガ、ウメエダシャク、イラガ、ミノガ、クスサン 

キリガやシャクガは4月後半から出現し、主として幼苗に着き、1匹でも壊滅的に食害する。 クスサンは5月上旬集団で出現し成木を食害する(成木のため壊滅的な影響はない)。

4  カメムシ目アブラムシ科 クリオオアブラムシ他アブラムシ各種

見かけ上は甚大な被害を起こすようには見えにくいが、実は侮れない害虫。各種のアリと共生関係。アリが歩く栗の木には必ず大発生している。5月幼苗に発生すると苗の生育や病害への抵抗力を低下させる。増殖スピードが早く抵抗性獲得しやすいため、薬剤防除よりも布やブラシでの擦り潰しか牛乳スプレーで防除する。そして何より天敵であるテントウムシとジョウカイボンを不用意な薬剤使用で死滅させないようにすることが大事。おそらく胴枯病菌の虫媒にも関与。

5     カメムシ目マルカイガラムシ科 カツラマルカイガラムシ 地域集団発生して栗枯死を招き数年で消退。そのため一般には特定の圃場で特定の時期にのみ見られる。

6     甲虫目ゾウムシ上科 キクイムシ科各種、ナガキクイムシ科カシノナガキクイムシ ナラ枯れの原因病害を媒介する重要害虫。

7    甲虫目カミキリムシ科 ゴマダラカミキリ、シロスジカミキリ

8     甲虫目コガネムシ科 マメコガネ、カタモンコガネ、ドウガネブイブイ、ハナムグリ、ヒメコガネ  ハムシよりも後に登場する。Japanese beetle としてアメリカでは恐れられるが、日本の栗では甚大な被害は起こしていないようには思われます。

9    甲虫目コメツキムシ科 サビキコリ他。  若い中堅どころの栗樹の葉上でよく見かける、「コメツキムシ」としてポピュラーな小型昆虫。トウモロコシやジャガイモ栽培では幼虫を含めて重要害虫ですが、どうも雑食者のようなので栗栽培での位置付けは微妙です。コメツキムシ幼虫が栗の根を食べるのかは不明。もしもそうなら栗枯死に関わる超重要害虫という可能性もあります、、、。もう少し調査を要します。

 

1〜4が幼苗や接ぎ木の穂木の新芽に付くと、苗や接ぎ木は枯死に至ることが多いので、特に注意を要します。 

 

 

 



コメント